歯周病と糖尿病

健口

歯周病と全身的な疾患の関係は日々研究されています。

低体重児早産、心筋梗塞、脳梗塞、肺炎、アルツハイマー・・・

全身疾患によって歯周病が悪化するだけでなく、歯周病の悪化によって全身疾患に影響を及ぼすことがあることを研究する分野をペリオドンタルメディシンといいます。

この中で代表的疾患に糖尿病があります。

歯周病が悪化すると糖尿病が悪化し、糖尿病が悪化すると歯周病が悪化します。

糖尿病の治療が効果がでない原因は歯周病にあるかもしれません。

歯周病と糖尿病、どちらかだけの治療を行うのではなく両方治療することが必要です。

今日は歯周病と糖尿病の関係について説明していきます。

スポンサーリンク

血糖値とは?

米、パン、うどんなどの炭水化物には糖がたくさん含まれています。

炭水化物は消化されブドウ糖(グルコース)になり小腸から吸収されて血管の中に入ります。

こうして血液中の糖が増えることで血糖値が上がります。

血液の流れによって糖は筋肉、肝臓、脂肪などの細胞に届けられ、膵臓から分必されるインスリンによって糖は細胞内にとり込まれます。

すると血液中の糖が減少して血糖値は減少します。

細胞にとり込まれた糖は体が活動するエネルギー源になります。

上図のように細胞にあるインスリン受容体をインスリンが刺激することにより糖を細胞内にとり込みます。

細胞にとり込まれた糖は身体活動を維持するためのエネルギーとして利用されます。

糖尿病とは?

糖尿病とはインスリンが効かない、またはインスリンが足りないために血液中のブドウ糖(グルコース)が増える(血糖値が上がる)病気です。

血糖値が高い状態が続くと、目、心臓、血管、腎臓、神経など様々な臓器に影響が及びます。

また、血糖値が上昇しすぎるとそれだけで昏睡状態になることもあります。

糖尿病の人はどんどん増えている

厚生労働省によると2017年の患者調査では糖尿病患者は328万9000人で2014年よりも12万3000人増えています。

糖尿病予備軍や検査をしていない人を含めるともっといると考えられます。

糖尿病患者は年々増加していて過去最高人数になっています。

男性が184万8000人、女性が144万2000人で男性の方が多いです。

糖尿病の種類

  • Ⅰ型糖尿病
  • Ⅱ型糖尿病

糖尿病にはⅠ型、Ⅱ型があります。

Ⅰ型糖尿病は膵臓からインスリンがほとんど出なくなり、血糖値が高くなります。

自己免疫によって膵臓のβ細胞が破壊されるためと考えられています。

注射でインスリンを入れ続けないといけないため、インスリン依存状態になります。

Ⅱ型糖尿病はインスリンが出なくなったり、効かなくなったりして血糖値が高くなります。

このインスリンが効きにくくなることをインスリン抵抗性といいます。

インスリン抵抗性は内臓脂肪型肥満が原因と考えられています。

内臓脂肪が増えると脂肪細胞からインスリンの効きを障害する物質(アディポサイトカイン)であるTNF-αを放出します。

すると、血糖値を下げようとして膵臓はどんどんインスリンを分泌するようになりますが、この状態がずっと続くと膵臓に負担がかかりインスリン分泌が少なくなります。

こうして糖尿病が悪化していきます。

Ⅰ型とⅡ型の違い

Ⅰ型糖尿病Ⅱ型糖尿病
年齢若い人に多い中高年に多い
症状急激に症状が出る症状が出ないこともあり、気づかないうちに進行する
体型やせ型が多い肥満の人が多い(やせ型もいる)
原因膵臓のβ細胞が破壊されインスリンが出なくなる生活習慣や遺伝によってインスリンが少なくなったり、効かなくなる
治療インスリン注射食事療法、運動療法、飲み薬、インスリン注射

糖尿病の基準値

  • 空腹時血糖値:126mg/dL以上
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験:200mg/dL以上
  • 随時血糖値:200mg/dL以上
  • HbA1c:6.5%以上

血糖値が高くなるとAGEsができる

インスリン抵抗性のために糖の細胞内へのとり込みができなくなり、高血糖状態が続くと、糖とタンパク質が結合してAGEs(終末糖化産物)がつくられます。

AGEsは体の様々な老化に関与する物質といわれ、糖尿病だけでなく動脈硬化、慢性腎不全、アルツハイマーなども悪化させると考えられています。

このAGEsが歯周病の悪化にも関係してきます。

AGEsによって血管が老化する

心臓から送りだされる血液は血管を通して体中をめぐります。

そして、細胞に必要な栄養、酸素を届け、いらなくなった老廃物を運んでいます。

しかし、AGEsが血管の細胞に作用すると、血管の基底膜が厚くなり、酸素や栄養、老廃物が血管を通ることができなくなります。

すると、血流が悪くなり、細胞への酸素や栄養の配給、老廃物の排出ができなくなってしまいます。

さらに、自然免疫である好中球も血管の外に出れなくなるので免疫力も低下します。

糖尿病によって色々な病気になる

糖尿病になると初期症状として

  • 足や手がしびれる
  • 勃起不全
  • 皮膚の乾燥、かゆみ
  • 多飲、多尿

といった症状が現れます。

これは、血流が悪くなり酸素や栄養の配給、老廃物の排出ができなくなってしまうことによります。

多尿の原因は糖を体から出そうとして腎臓が大量の尿をつくるからです。

体から水分がなくなるのでのどが渇き、水をよく飲むようになります。

糖尿病の合併症

このような状態がずっと続くと様々な合併症を引き起こします。

  • 神経障害
  • 網膜症
  • 糖尿病腎症
  • 心筋梗塞
  • 脳梗塞

そして、歯周病もこれらの合併症の1つになります。

糖尿病から歯周病へ

糖尿病によって歯周病が悪化するメカニズムを説明します。

歯周病のメカニズムについてはこちらを読んでください。

AGEsが好中球を障害する

歯周病の原因はお口の中のばい菌です。

このばい菌を排除してくれるのが免疫細胞の1つである好中球です。

好中球はばい菌をみつけると血管の中から出てきて(遊走)ばい菌を食べて(貪食)やっつけます。(殺菌)

糖尿病で高血糖になり、AGEs(終末糖化産物)が増加すると、AGEsは好中球に付着してその機能を阻害してしまいます。

このようにして歯周病の進行に関与しています。

AGEsはマクロファージを変化させる

AGEsはマクロファージに貪食されて歯周病の進行に関わるIL-1、TNF-αなどの炎症性サイトカインを産生して炎症を起こします。

さらに、AGEsはマクロファージのRAGEsという受容体にはたらきかけより歯周病を悪化させやすいものに変化させます。

こうしてマクロファージは歯周病を悪化させる原因である炎症性サイトカインの産生を抑えられなくなって歯周病が進行しやすくなります。

AGEsは歯根膜の機能を低下させる

AGEsはタンパク質の1つであるコラーゲン線維を変化させます。

コラーゲン線維は通常は架橋結合でつながっています。

通常の架橋構造であれば弾力があり、古くなればコラゲナーゼという酵素によって分解され新しいコラーゲン線維に置き換わっていきます。

しかし、AGEsによる架橋構造になると弾力がなくなり、古くなっても分解されず、ずっと残ってしまいます。

AGEsはマクロファージによって貪食されますが、その時にコラーゲン線維も一緒に貪食されてしまします。

歯と骨をつないでいる歯根膜はコラーゲンでできています。

歯周病になると歯を支えている歯槽骨と歯根膜が破壊されてしまいます。

糖尿病によってAGEsが増加すると、歯根膜のコラーゲン線維の機能が低下、古いコラーゲン線維がずっと残ることにより歯根膜の修復が起きにくくなります。

このようにして歯周病は進行していきます。

歯周病から糖尿病へ

次は歯周病によって糖尿病が進行するメカニズムを説明していきます。

歯周病菌が出す毒素によって血糖値が高くなる

歯周病の原因はグラム陰性菌というばい菌です。

ばい菌は歯にバイオフィルムというばい菌の塊となって生息します。

すると、歯茎に炎症が起きて簡単に出血するようになります。

歯周病菌はLPSという毒素を出して歯茎の出血部位から体の中に入っていきます。

体がこの毒素を排除しようとして免疫細胞であるマクロファージが毒素を貪食するとTNF-αといった炎症性サイトカインを放出します。

炎症性サイトカインが細胞に作用するとインスリンが効きにくくなり(インスリン抵抗性)、糖を細胞の中にとり込めなくなります。

このようにして血糖値が高くなり、糖尿病が悪化します。

インスリン抵抗性が増すので歯周病によって悪化しやすいのはⅡ型糖尿病ということになります。

よく噛むことで糖尿病を予防する

口から炭水化物を摂取して糖が小腸から吸収されるときに、腸の細胞からインスリンの分必を促進するホルモンが放出されます。

これは点滴などで栄養をとっても分必されず、口から栄養をとらないと分泌されません。

また、食事をよく噛んで食べるほどホルモンの分泌が多くなり、インスリンの分泌が促進されます。

歯周病によって歯がなくなってしまうと食事が食べにくく、丸飲みになったり、食べるものが制限され栄養が偏ります。

つまり、歯を治してよく噛めるようになることが糖尿病の予防につながります。

残念ながらすでに糖尿病の人には効果があまり確認されていませんが、食事療法が大切な糖尿病の治療に歯がなくて食事がしにくいと困ってしまいます。

よく噛むことで唾液が出やすくなり虫歯の予防にも役立ちます。

よく噛んで口から栄養を取るということが糖尿病予防になるので歯周病の治療、予防もしっかりと行いましょう。

まとめ

糖尿病患者は年々増加しています。

それは日本だけでなく世界中で患者数は3億5千万人にもなります。

しかも、2030年にはその数が倍になるといわれています。

糖尿病には網膜症、神経障害、糖尿病性腎症など合併症が多くあります。

最近では血糖値が高くなることでできるAGEsによって発がん性、アルツハイマー、骨粗鬆症、白内障になるという研究データがでています。

糖尿病では日々の生活習慣が重要になってきます。

暴飲、暴食による肥満は糖尿病のリスクを高くします。

そして、肥満などの生活習慣は歯周病のリスクにもなります。

糖尿病になると、今までに食べることができたものが食事制限で食べられなくなったり、薬を飲んだり、インスリン注射が必要だったりと大変です。

歯周病も糖尿病も症状なく進行することが多いので、いつも生活習慣に気をつけ、かかりつけ歯医者で検診をするようにしましょう。

今日はこれでおしまいです。

おつかれさまでした!

コメント

タイトルとURLをコピーしました